チップスター図鑑 冬コミ(C95)で頒布(カップスター本と共に)
チップスターをコレクションした本を、作りました。(冬コミで頒布)
公式ページには数種類しか載っていないものの、よーく探すと……あるわあるわ。季節限定、コンビニ限定、地域限定、そしてさらには新幹線限定なんてものまで。この一年、集めに集めて33種類発見しました。
内容についてもう少し詳しく
もともとは、2016年8月をもってヤマザキナビスコがナビスコブランドを返上しなければならないことがきっかけでした。「あぁ、もうナビスコチップスターが買えなくなるのか……」と。名残惜しさのあまり、その時お店に並んでいたものを買い揃えようとしたのが間違いだった。(笑)
探し始めると、あるわあるわ。「え、そんなもの。あれ?こんなものまで!」と、そしてヤマザキナビスコからYBC(ヤマザキビスケットカンパニー)に改名してからも、続々と登場するのです。「あ、このコンビニにしか売ってないやつがあるじゃん」とか果ては東海道新幹線に乗っている時に車内販売に見慣れないチップスターがあって度肝を抜かれました。
公式ページにのってる商品紹介とは何なんだ。
と言いたくなるほどです。
そして、図鑑を作成


パッケージの絵柄もさることながら、原材料欄や注意書きを見ていても面白いのです。例えば、「〇〇味」を作るには想像もつかない原料が入っていたり、同じ商品がマイナーチェンジすると原材料が微妙に変わったり……。などなどのことから、各商品について次のような項目を設けて紹介しました。
- パッケージ写真
- 中身の写真(食べ物こそ主役!パッケージなど額縁でしかない)
- 原材料欄
- 栄養成分表示
- 注意書き
- 入手困難度などの主観的評価
- コメント
- などなど……
まさに図鑑ですね。
巻末にはなぞの写真集
そして、オマケとして巻末にチップスターのミニ写真集を掲載。あ、メインのページも写真を載せていますが、それらとは趣が違います。
チップスターは食品で、食べられたら消え、用済みの箱は捨てられる運命にあります。そんな儚いチップスターの刹那の美しさを写真に収めたかったのです。フラワーアレンジメントにしてみたり、バラ園ロケしてみたり……。とにかくご鑑賞あれ。
冬コミ(C95)3日目、P30abでお待ちしてます。"ab"ということで合体サークルです。しかも、隣はなんと「カップスター」の本!(東相模原研)。チップスターとカップスターの夢のコラボが実現します。こんな感じ(↓)。カップスターのあのギザギザが再現されているんですって。電子書籍では味わえない楽しさ!
【告知】#C95 新刊「#実食カップスター」執筆当時で購入可能なカップスターをレビューしました。現在はなくなってしまった表面の凸凹とした手触りを表紙で表現しています。12/31(3日目)東P30b「東相模原研」です。合体サークルで、お隣はチップスターの本です。あわせてどうぞ #評論情報系同人誌告知 pic.twitter.com/B52FFhOtqJ
— 東相模原研@C95三日目P30b (@higashisagamiha) 2018年12月21日
「けもフレ×ネットカルチャー×プログラミング」な本の第二期を作り、その後をニコブロで報告中
まず、冬コミで頒布した作品の購入ボタンを置いておきます。
ひとことで言うと、Twitter上で発せられた「けものフレンズ」を大量収集し、分析した本で、その2ndシーズン(2017.08〜12)です。1stシーズン(2017.03〜07)の在庫は少なくなってきましたが、両方ともこのブログ(ショッピングカート)で絶賛頒布中です。
また、下記の同人誌ストアでの委託販売もやっています。
内容についてもう少し詳しく
2017年に、奇跡の人気を博し、社会現象にもなったアニメ「けものフレンズ」。この作品のファンになった人々(フレンズたち)は、どんなことを思い、どんな行動をとったのか、その様子をTwitter上に投稿された大量のツイートから解き明かそうというのがこの本です。
分析の結果、第二期(2017.08〜12)ではこんなことがわかりました。
- 再放送、特に北朝鮮ミサイルによる特別報道体制にも負けずに放送された最終回に対するフレンズたちの反応
- 9月のミュージックステーション特番で、47組のアーティストの中での強い人気を見せ付けたこと
- たつき監督降板騒動発生後の、国内・海外のフレンズたちの思い
- その後も、どうぶつビスケッツ(+かばん)×PPPは、音楽番組で変わらぬ人気を維持していたこと
- グレープ君を偲び、数々のメッセージやイラストを投稿したフレンズたちの様子
- 国内・海外を問わず、各地の動物園やサファリパークにフレンズたちが聖地巡礼に訪れていたこと
- けものフレンズがーでんが、いかに愛されていたかを示す位置情報付ツイートのデータ
普通のけもフレ本とは違う内容に関心を持たれ、テレ東の番組Pにもお買い上げいただきました。
買わせていただきました!
— 細谷伸之@テレビ東京 (@nobutx_0517) 2018年1月1日
ありがとうございます!
すごい情報量!
3rdシーズンも出したかったのですが
買われた方々からの評判もよかったので出したかったんですけど、今の状況だと正直まったく目処が立たないです。昨年9/25、アニメ版の功労者たつき監督が不本意さを滲ませながら降板報告をし、12/27には福原Pからも2期担当は叶わなかったという最終報告もなされ、その間にも憶測に基づく様々な風評が流れました。世の中の関心が薄れて、まとめるほどに十分なデータが採れ続けるかわかりらないからです。
そこで、とりあえず本で発表する形式への拘りはやめて、観測できている間はブログで報告していくことにしました。ただ、ここではなく、ニコブロです。
けもフレに関する出来事がある度にニコ動上の第一話にコメントが溢れるほど、けもフレといえばニコニコ動画が拠り所になっていることに敬意を表して……。
けものフレンズプロジェクト公式の番組も続いていますし、新たな企業コラボやゲームアプリも控えていて、まだまだ存命コンテンツだと思いますので、それらが続く間は観測を続けようと思っています。
「けもフレ×ネットカルチャー×プログラミング」な本できました
新刊ができたので、商品の購入ボタンを置いておきます。いや……そうじゃなくて紹介記事置いておきます。
「これはボス、あなたこれがだんだんボスに見えてくる」と言われたらもうそれにしか見えなくてもうどうしようもないペトロナスツインタワーの表紙が素敵なけものフレンズの本です。
でも、かわいいフレンズたちの絵とかマンガとか一切ありません。フレンズ化した人々(各界著名人含む)が巻き起こした行動や名言、起こった出来事をTwitter上で観測した本です。
くわしく
まず、特殊なソフト(いや、全然特殊じゃない)を使ってTwitterで①ツイートの大量検索を実施します。その時に使った検索条件式が次です。
けものフレンズ OR けもフレ OR けもふれ OR ケモフレ OR じゃぱりぱーく OR ジャパリパーク OR "サーバルちゃん" OR "かばんちゃん"
これが、この本をフレンズ化した唯一かつすべての要因です。

次に、そうして取得した大量のツイートから②表計算ソフトでグラフを作ります。どういうグラフかというと、「何時何分に1分あたり何回のツイートがなされたか」
すると、特定の日時にものすごい勢いでツイートをされる箇所がたくさん見つかります。ものすごい勢いでツイートが飛び交っているということは、何かフレンズたちをザワつかせる事件があったに違いありません。ということで、③物凄い勢いでツイートが飛び交っていた最中のツイートを観測します。すると……、
- その時,どんな出来事が起こっていたのか
- どんな名言が飛び出したのか
- その出来事に対して、皆どんなリアクションをしていたのか
などが、手に取るようにわかるという仕組みです。それが右上に貼ったグラフ例です。
多彩なグラフ
グラフはそれだけじゃありません。例えば、フレンズたちが固唾を飲んで見守っていた最終話放送中などは分単位ではなく秒単位でグラフ化してどの時分秒の何のシーンに盛り上がったのかを調査しましたし、どうぶつビスケッツ×PPPがミュージックステーションに出演した際には他の出演者と比べてどれくらい多くツイートされたのか集計しましたし、ツイートに付随している位置情報をマッピングしてフレンズたちがどこへ足を運んだのかも可視化しました。
メイキングも公開
一応うちはコンピューター技術を取り扱うグループですので、技術解説パートも用意しました。
これらのツイート収集や分析、一体どういう機材を使って行ったのか?
じつは、一台のUNIXコンピューターと家庭用インターネット回線、そしてUNIXコマンドだけなのです。Rなどの高級言語もいらなければ,Firehose等の特殊な契約も必要ありません.
その具体的な手順をチュートリアル形式で紹介していますので、あなたも今日からツイートのデータ分析が始められるようになります。夏休みの自由研究にピッタリですね。
コミケ1日目 た24bで初売り
コミケ合わせで作りましたのでコミケで初売りします。初日た24bです。この日は、たつき監督も隣のホールに出展しているらしいですよ。フレンズのみなさんは、ぜひついでに立ち寄ってください。
それから、3日目も東SOKEN(S40a)さんとこに委託しますのでそちらでもぜひ。
2017年、POSIX原理主義は世界に進出する
この記事はPOSIX原理主義 Advent Calendar 2016の最終日です。
Advent Calendar 2016完走のご挨拶
さて、このAdvent Calendarを読破してくださった皆様、そして当番の日に執筆してくださった皆様、この25日間おつきあいくださりありがとうございました。主催者でもない私が挨拶するのもおかしなものですが、POSIX原理主義という考え方を提案した張本人として、こういう場を用意してもらえたことに心から感謝します。
まだ埋まっていない日もありますが、当番の方が読み応えのある内容で後日必ずや埋めてくれるはずですの期待してお待ちください。
後日埋まるはずではありますが、節目の25日を迎えたということで、POSIX原理主義を来年どうしていくかの抱負を語り、一足先に完走のご挨拶に代えたいと思います。
今年は、大きな一歩を踏み出した年
POSIX原理主義という考え方。これは、私の中で2014年頃に生まれました。それまでもPOSIXに準拠すると何だかラクになるなぁというぼんやりとした思いはあったものの、一つの概念としてしっかり命名したのはこの年でした。また同年、PHPカンファレンス2014に参加したのが公の場でのデビューでした。なぜPHPのイベントだったかというと、この年のPHPconでは、言語を問わないLT大会が催されたからでした。
あれから2年。POSIX原理主義に基づくソフトウェアを書き貯めつつ、今年は学術論文を発表したり、Bash on Ubuntu on Windowsの登場によるOSの壁崩壊という大革命に合わせてPOSIX原理主義の理論を完成させ、その内容で商業出版を果たしました。
でも、今年何より大きかった出来事はPOSIX原理主義の支持者が現れ、仲間ができたことでした。私も、提唱者とはいえ一人の人間。気が付かない間違いや辿り着けないアイデアがあり、そして一つの体ではやりきれないこともたくさんあります。そこを補完してくれる人というのは今後の発展のためには欠かせない存在です。
今年もついに、できなかったことがあった
POSIX原理主義はとても切れ味の良い、優れた理論であると思っています。現代ソフトウェアは、目先の性能や利便性ばかりを追求し、長持ちさせるという発想がどこかへ抜けてしまっているものばかりですが、長持ちさせたいというニーズに応えられる貴重な解であり、パラダイムシフトを起こす存在だとさえ思ってます。そして優れたコマンドもいくつか作ってきました。
- ただコピーするだけで、WindowsでもMacでも、もちろんUNIXでも、多くの環境ですぐ使えるTwitterクライアント
「恐怖!小鳥男」 - 同様にして、多くの環境ですぐ使えるのはもちろん、既存のソフト以上にUNIXとの相性がよいCSV, JSON, XMLテキストパーサー&ジェネレーターの
「Parsrs」 - 2020年の東京五輪まで動き続けることを目標に、制作から2年以上経った今でも無修正できちんと動き続けている東京メトロ車両位置情報案内アプリ
「メトロパイパー」
どれもヒットしてもおかしくない出来映えだと思っています。JSONパーサーのjqやジェネレーターのjoなど、starが何千個もついているわけで、それよりも優れた出来である自信があるので当然もっとstarが付いてもよさそうなものです。
しかし現実には2ケタの差があります。同じように疑問を持つ方もいらっしゃいます。
makrj.shが自分の中ではかなり良くて、昔でいう「外人4コマ」みたいにガッツポーズしてるくらいなのだけれど、検索しても反響が全くなく一体どういうことなのか、私は別の世界線に存在しているのだろうか
— div_jp (@div_jp) 2016年9月21日
これが、今年できなかったこと。つまり、優れているのに全然普及しなかったということです。なぜなんでしょう?
この本が、できない理由を教えてくれた
オライリー・ジャパンが発行している
という本に答えが書いてありました。じつは、数年前に購入していた本だったのですがの本棚に挿したまま読んでいませんでした。良いソフトだとおもうのに流行らないのは「何でだろう」と思うようになっていて、この本を読んでみたらあっさり答えに辿り着きました。ちなみに、この本のすべての内容はWebでも読めます。
この本は、書名のとおりオープンソースソフトウェアを普及するための枠組みを作るための作法について書かれたものです。特徴的なのは、「こうやると失敗する」「こうやらないと失敗する」ということを具体例を示しながら解説している点です。
そして、POSIX原理主義ソフトウェアが流行らない理由に対する答えは、第2章「さあ始めましょう」に書いてありました。
「手持ちのもので始めよう」節より
フリーソフトウェアプロジェクトの立ち上げ時に最も厄介なのは、 個人的なビジョンをみんなにわかる形に置き換えることです。 あなた (あるいはあなたの属する組織) にとっては何がやりたいのかは明白でしょう。 しかし、そのプロジェクトの目標が何なのかを一般にもわかるように表明することは、 それなりに大変な作業です。しかし、 かならず時間を割いてそれをやらなければなりません。
つまり、「限られた時間の中で、ドキュメント作りと新たなコード作成どっちに時間を割く?」と問われたら、後者を選びたくなるけどそれが罠だと言っているのです。
しかも、
インターネットのデフォルト言語が英語となっている という事実を無視することはできません。
といって、英語を前提をすべきことまで示唆されていました。
我々の作ったソフトウェアを振り返ってみるとどうでしょう?ドキュメントはほとんどありません。シェルスクリプト中のコメントはまぁまめに書いていますが、ほとんど日本語です。
ドキュメントがないということは、空気も同然です。つまり、見えないということです。見えないということは、使う人も現れないのはもちろん、プロジェクトに参加しようとする人も現れません。参加しようかどうしようか、迷うことすらできないのですから。
来年はPOSIX原理主義のコミュニティーを立ち上げる!
というわけで本の教えに従って、来年は次の活動に力を入れます。
(1) コマンドのマニュアル、POSIX原理主義のドキュメントを整備します
まずは、本で指摘されれいた罠に見事にハマっていたことを反省し、これまで作ってきたコマンドのドキュメントを作っていきます。まずは母国語たる日本語で書いてフォーマットの確立や説明シナリオを確立し、次々英語に翻訳していきます。
特に完成度の高いと感じている「Parsrs」や「小鳥男」を優先してドキュメント化していきたいです。
並行して、POSIX原理主義を実践していくうえでのドキュメントの整備・翻訳も進めます。具体的に言うと、
のことです。さらに、このAdvent Calendarに寄稿してくださった有用なTipsも対象にできれば理想です。
「満足に英語使えるのか」ですか? 幸い今年、
というニュースがありましたし、たぶん大丈夫でしょう!
(2) POSIX原理主義のWebページを作ります
ドキュメントを作ることは確かに重要ですが、それらを一覧的に見られるWebサイトも重要です。そもそもPOSIX原理主義は思想が大事ですので、そういう話を語る場所が必要になります。
案の定、そういったWebサイトが必要であることも同じ本の同じ章に書かれています。もうこれはさっさと作るしかありません。それでもう名前は決めてあります。
posixism.org です。
POSIX fundamentalism、略してPOSIXismというわけです。もうドメインは押さえてあります。始めはほとんど中身のないサイトだと思いますが、できたらアナウンスします。
(3) POSIX原理主義のコミュニティーを作ります
POSIX原理主義の今後の構想をすればするほど、もっと多くの仲間が必要だなと感じます。ドキュメント整備やコード開発の仕事を手伝ってくれる仲間になってくれる人がいるとありがたいところですが、始めからそんなことは望みません。
一緒にPOSIX原理主義を楽しみ、実践してくれる仲間を増やしたいです。だいたいどんなプロダクトもそうですが、利用者の数が多いほど価値が高まります。
そのために、どこかのつてを探して定期的な勉強会など開けないかと画策します。見事開催が実現したら
などの意見交換をしたいと。例えば、先日のAdvent Calendar 21日目でシェルショッカー総統の321君が、「revやseqコマンドはなぜ優れているのか」ということを語っていましたがまさにああいう議論であり、意見交換をしていきたいです。
今でもTwitter上などで何となくは議論していますが、オフラインで本格的にやりたいですね。
英語……。うーん英語圏の人とも議論できたら理想ですね。
世界を“Great!”と言わせ、日本人に「すごい!」と言わせる。
今年は
が大ヒットしましたが、このコンテンツのヒットの経緯を見ても、日本人は自力でいいものを見つける力が弱いんじゃないかと思います。なぜ世界レベルのコンテンツ力をもった作品が海外を経由しないと流行らないんでしょうね。
技術も同じです。青色LEDもそうですし、既に八木・宇田アンテナが発明された時代にこの気質はありました。日本発のソフトウェアで有名なものはほとんどありませんが、よーく調べてみると、日本人の目に留まらかったことで、優秀なのに消えて行ったり、海外に流出してもともと日本で生まれたものだともはや誰にも知られていないものが意外に多く存在します。
POSIX原理主義がドキュメントの英語化に拘るのもこういう意図があります。海外で認知されなければ、国内ですら生き残れないという危機感です。
だから我々は、POSIX原理主義で世界を“Great!”と言わせ、そして日本で「すごい!」と言わせなければならないと思うのです。
というわけで来年、POSIX原理主義は世界に進出します。どうか応援してください。あわよくば、仲間になって一緒に“Great!”と言わせようじゃありませんか!
「大岡裁き」ならぬ「POSIX裁き」
この記事はPOSIX原理主義 Advent Calendar 2016の9日目の記事です。
今日のテーマは、POSIXという規格で起こった一つの事件とその裁きを、大岡政談(大岡裁き)になぞらえて紹介します。
大岡政談とは何か
そもそも大岡政談とは何でしょう?それはあの水戸黄門と共に時代劇の定番となった大岡越前をモデルにした(ほぼ創作上の)事件簿です。
実際の水戸黄門も諸国漫遊をしておらず、あれは創作物語だったのと同様に、大岡越前の名裁きとされる逸話も史実だと確認できているものは今のところ一つだけ*1で、あとは落語の囃と言われています。
創作であろうものの、その中でも特に有名なのが「三方一両損」
昔、大工の吉五郎という男が小判三両を無くした。それを左官の金太郎が拾い、幸い財布に吉五郎の名が入っていたことから善意で届けたところ、恥に感じた吉五郎は受け取りを拒否。やがて喧嘩になり、町奉行大岡様の白洲(法廷)にて決着をつけることに。
白洲でも相変わらず互いに主張を譲らぬ二人であったが、そんな二人を大岡は謙虚であると、たいそう褒めた。そして大岡は吉五郎が頑なに受け取らぬ三両を代わりに受け取り、そこに懐から取り出した自分の一両を加えてこう言った。
「その方らは謙虚ゆえ、褒美を出す。この手元にある四両を二両ずつ受け取るがよい。吉五郎、その方は届けられた時点で受け取っていれば三両が戻っていたもをその謙虚さから二両しか戻らず一両の損。金太郎、その方は拾った時点でそのまま受け取っておれば三両得したものをその謙遜さゆえ二両しか褒美を貰えず一両の損。この大岡忠相も、その方らに褒美を授けるために一両出し、一両の損。三方一両損。これにて一件落着」
さらにこの話には「三方一両得」という続きがあり、「なるほど同じ騒ぎを起こせば大岡様から一両貰えるのか」と悪巧みした二人組をこれまた巧妙な裁きで懲らしめるというものなのですが、いずれにしてもウィットに富んだ名裁きとして語り継がれています。
「アーカイバー一命令損」事件
さて、POSIX規格にも過去、二つのコマンド(命令)が削除されるという一大事が起こりました。過去との互換性を何よりも尊重するはずのPOSIXという規格が、なんとコマンドを削除したのです。しかし、そこはPOSIX。単に削除したわけではなく、ウィットに富んだ名裁きを行って決着を図ったのです。
この事件を、三方一両損になぞらえ、「アーカイバー一命令損」と呼ぶことにしますが、その経緯を見ていきましょう。
tarコマンドとcpioコマンド
今を遡ること28年前の1988年。UNIX系OSのあるべき仕様を定めた「POSIXの御触書」が公布されました。その正式名称はIEEE Std 1003.1-1988というものでしたが、そこには当時メジャーだったアーカイバーコマンドであるtarとcpioも記載されていました。つまり、tarとcpioはUNIX系を名乗るOSが持つべきコマンドとされていました。これは、それまでの各種UNIX系OSで双方のコマンドが普及していたことを物語っています。
しかし、両者の仲(互換性)は最悪。それぞれで生成したアーカイブファイルには全く互換性がありません。アーカイブファイルを作るという目的を達成するために、異なるベンダーがそれぞれ独自に開発し、二大勢力になっていたというだけだったのです。各種UNIX系OSの仕様の最大公約数的存在を目指していたPOSIXにおいて、この二大勢力のどちらかを切り捨てるというこは当時できなかったのでしょう。だからこそ両方ともPOSIXに採用されたのだと思います。*2
フォーマットの陳腐化と独自拡張
しかし、時代と共にコンピューターが扱うデータサイズが大きくなると、それぞれアーカイブファイルフォーマットが陳腐化していきました。一つは大きなデータに見合わぬ小ささのブロックサイズ。ブロックサイズが不適切に小さいと効率が悪化してしまいます。もう一つは8GBの壁。当初の規格ではどちらも8GB以上のサイズを持つアーカイブファイルが生成できませんでした。特にファイルサイズの上限問題は致命的です。
これでは使い物にならないということもあり、各ベンダーは勝手に独自拡張を施すようになりました。こうして、細かな派生が生まれ、POSIXの御触書によって維持されていたtar&cpio二大勢力という治安が崩れようとしていまいた。
POSIXが両コマンドに下した裁き
最初の御触書が交付されてから5年後の1993年、庶民(ユーザー)達からの陳情にPOSIX守(ポジックスのかみ)はついに裁きを下すことになりました。
下した裁きはなんと、tarコマンドとcpioコマンドの双方の所払(ところばらい)!ベンダー間で統一性の無い拡張をした以上市中(POSIX環境)には置けぬということで、御触書から削除を命じたのです。
しかしそこは名裁きで有名なPOSIX守、単なる所払ではありませんでした。このままではアーカイバーコマンドが無くなってしまいますから、新たなコマンドをアーカイバーの役に就かせることとしたのです。しかしここでかつての二大勢力と異なる第三のフォーマットを策定しては、今まで作成されたアーカイブファイルが開封できなくなってしまい、庶民達が混乱してしまいます。そこで、新たなコマンドにはtar、cpio双方の形式を踏襲させつつ、ブロックサイズやデータサイズの上限問題を克服できるよう仕様を拡張させたのです。
そして、新アーカイバーコマンドに与えた屋号(名前)はpax。ラテン語で「平和」を意味します。POSIX上でアーカイバ―コマンドが二つ減って一つ増えて……、これぞまさしく「アーカイバ―一命令損」。めでたしめでたし。
今のPOSIX文書に、裁きの跡が残されていた
この裁きがあったことを物語る記述が、「POSIXのお触書」2008年版(IEEE Std 1003.1-2008)のpaxコマンドのページに残されています。
"pax"という名には、packs(「梱包する」という動詞の三人称単数現在)の意味と同時に、アーカイバーコマンドの覇権争いを終わらせて平和を築こうという願いが込められていたのです。何という名裁きなのでしょうか。
paxコマンドを試しに使ってみる。
そもそもpaxって皆さんご存知ですか?POSIX守の願いがいまいち届かずあまり有名ではありませんが、POSIXの御触書にありますのでお使いのUNIX系OSにはまず間違いなく入っていると思います。そして、実際にtarやcpioとファイルの互換性があります。
さすがに、「paxでアーカイブファイルを作ればtarでもcpioでも開ける」ということはありませんが。どちらの方式のアーカイブファイルも作成できますし読めます。そして、現在の大抵のtarコマンドは(たぶんcpioコマンドも)paxコマンドが作成する上位互換アーカイブフォーマットを読めます。
というわけで、試しにpaxコマンドでtar形式の上位互換であるustar形式アーカイブファイルを作成し*3、それをtarコマンドで開いてみようと思います。
# 1)テスト用のディレクトリーを作って入る $ mkdir ~/test $ cd ~/test # 2)paxでアーカイブ作成 # ・-wオプション + 対象ファイル名... # ・結果は標準出力に出るのでリダイレクト $ pax -w /usr/share/man > man.tar # 3)tarでアーカイブ展開 # ・paxは絶対パスを取らずにアーカイブを作るので警告が出る $ tar -xf man.tar tar: Removing leading '/' from member names tar: Removing leading '/' from hard link targets # 4)生成ファイルを確認 $ ls total 33944 -rw-rw-r-- 1 rich rich 34713600 Dec 9 03:14 man.tar drwxrwxr-x 3 rich rich 4096 Dec 9 03:14 usr $
ちゃんとできました(古めのCentOS 5で確認)。
というわけで、これからはtarに代えてpaxコマンドを使いましょう。POSIX守に感謝しながら。
Shell Scriptライトクックブック2014-2016 頒布中
2016年の夏コミで発行したShell Scriptライトクックブック2014-2016を通販してます
Shell Scriptライトクックブック 2014-2016(第4版)
2016年8月14日 発行(コミケ90 3日目)
頒布価格:1500円
ページが増えて232Pに
(Safariをお使いの方はコチラで注文)
第4版の変更点
詳細は目次をご覧ください。と済ませるのもあんまりなので、ポイントを記します。
Bash on Ubuntu on WindowsとTwitterに対応し、青いカバーに
そもそも改訂は第3版でおしまいと言っていたのですが改訂しました(スミマセン)。というのも、Bash on Ubuntu on Windowsという大革命が起きたからです。POSIX原理主義がWindowsでも通用する時代が到来したとなったらそれをサポートすべく対応しないわけにはいかない、というわけでBash on Ubuntu on Windowsに対応した内容にしました。
併せてレシピも追加しましたが、一番の目玉はTwitterに関するレシピ。シェルスクリプトからTwitter APIを操作して、投稿、検索、DM送受信などの日常使いを実現する方法を追加しました。
つまりこれらは、Bash on Ubuntu on Windowsでも動くTwitterアプリが作れるということを意味します。
計15個のレシピが、追加 or 修正
先程紹介したTwitterレシピをはじめ、合計15のレシピを追加しました。5章の「どの環境でも動くシェルスクリプトを書く」の内容をより完璧にしたり、他に大きなものとしては、1秒未満sleepをいかにしてPOSIXの範囲で実現するかなどを解説しています。たぶんこれはコロンブスの卵的に目から鱗なはずです。
序章を完全に書き直し、POSIX原理主義の理論をより完璧なものに
POSIXの範囲では不可能な処理を行うためにはどうしてもPOSIX外のコマンドを利用しなければなりませんが、従来は「やむを得ないので、最低限にとどめる」という見解であり、理論的に不完全でした。第4版ではこれを修正、「交換可能性の担保」という考え方を導入することで、理論的な曖昧さを解消しました。
また、東京メトロのコンテストから1年半経過し、一体どれだけの応募作品が今でも動いているのかの実態調査レポートも掲載しました。POSIX原理主義を用いないソフトウェアの保存の利かなさが露呈する結果になりました。(こんな結果で東京五輪観光客向けのアプリ開発促進計画は大丈夫なんでしょうか?)
通販もやってます
通常のコミケではないし……、遠いし……、行けないよ。という方もご安心を。通販やってます。この通販のためのプログラムは、本書で紹介したレシピをふんだんに活用し、シェルスクリプトで作られたものです。本書レシピの実力の程を確認するためにも、このサイトの通販を是非ご利用ください。(Safari等、このサイトのカゴ入れボタンがうまく機能しない方はコチラへ)